喋ったり動いたりしているのを近くで観察していれば、目の前の誰かは三郎の変装だと三木ヱ門でも察しをつけることはできる。遠目だったり、ちらりと見かけるくらいでは、よほど「誰か」らしくない且つ三郎らしい行動でもしていなければ分からない。
しかし五年間もほとんど毎日顔を合わせている勘右衛門なら、ひと目で八左ヱ門か、八左ヱ門の顔をした三郎か見分けられても不思議はない。走る二人を見て笑ったのなら、兵助と三郎(暫定)は急いではいたが、何事かと不安にさせるような緊迫した様子ではなかったのか。
火薬委員会と学級委員長委員会が一緒に慌てるような事態って、なんだろう。
「つづら……」
食草園に潜んでいた三郎が、三木ヱ門が伊作を探していると聞いて「焔硝蔵の方へ向かった」「すぐに追えば捕まえられる」とまるで追い立てるように重ねて言ったのは、からかう振りをして何かから目を逸らさせるためなのか。考えてみれば三郎のその言葉があったから三木ヱ門は伊作が兵助に会いに焔硝蔵へ行ったと考え、委員会の必需品を潤沢に――あるいは安価に買い入れたという共通点をその行動へ当てはめて、火薬委員会と保健委員会の繋がりを疑ったのだ。
伏木蔵の証言で伊作は実際に焔硝蔵へ用事があったことは分かったが、それは火薬委員から何かを受け取るためではなく、薬草を置いて来るためだった。
猿の一件を伊作が伏せても、害虫の侵入を防ぐ草だとでも言えば兵助はそれを認めるだろう。すると保健と火薬は必ずしも秘密を共有している必要はない。
「……に、踊らされてるのか……」
生物委員会が内外の貿易商と伝手を持ったのと同時期に、生物委員会と手を結んでいる保健委員長だけではなく、火薬委員会も必需品をたくさん入手できる販路をたまたま見つけた――という偶然には、素直に頷けない。生物が火薬に伝手を分けたと考えるほうが自然であるように思えるが、公にできない「やんごとなき猿」が関わっている以上、そこには何らかの利害関係があるはずだ。
しかし委員長代理同士が同級生で友人ということ以外に、生物と火薬をどう結びつければいい。
その仲介に当たったのは保健委員長ではなく、同じく五年生で、学園の雑事を取り仕切る学級委員長委員会の三郎だったのか?
「……中身は、なんだ」
学級委員長委員会も猿の隠蔽に関わっていたなら、その役割はなんだ?
ぱちりと瞬きして三木ヱ門がふと我に返ると、伏木蔵と怪士丸が傾いた首をそのままに、同じくぱちぱちと目を瞬いた。
「踊るつづらの中身は猫だと思います」
「僕はツクモガミだと思います」
我知らずぶつぶつ言っていたことに気付き、うんそうだねと三木ヱ門が生返事をすると、二人の顔がぱっと明るくなった。