「竹谷先輩と?」
予想外の名前が出て来た。
と言うことは、三木ヱ門の目の前で屋根から転がり落ちてた八左ヱ門と、一年生たちが見た焔硝蔵から駆けて来る八左ヱ門のどちらかは三郎だ。八左ヱ門に変装している新たな第三者がいる可能性もあるが、他人の顔を借りてうろつく趣味のある人物は今のところ学園にひとりしかいないから、目をつぶる。
「どんな様子だった。慌てていたか、そうでもなかったか」
「うーんと……遊んでいるふうには見えなかったです。でも、尾浜先輩は笑ってらっしゃいました。"またやってる"って」
五年生の間で鬼ごっこが流行っているんですかねえと、冗談とも本気ともつかない口調で伏木蔵が言う。
三木ヱ門が口を開く前に怪士丸が異議を唱えた。
「あれ、"まだやってる"っておっしゃったんじゃなかった?」
「え? "また"でしょ?」
またやってる――なら、兵助と八左ヱ門の二人が駆け回る光景は勘右衛門にとっては珍しくない、ということだ。五年生は比較的落ち着きのある学年ではあるが、それでもなにしろ14歳なのだから、同級生同士ならふざけ合ってはしゃぐこともあるだろう。
まだやってる――なら、今日は朝から珍しく八左ヱ門に変装していた三郎がまだそのままでいる、いつまでやってんだあいつ、という意味にも取れる。
「……こっちかな」
顎に手を当てて三木ヱ門が独り言を洩らすと、伏木蔵と怪士丸は左右対称にきょとんと首を傾げた。