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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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「一年ろ組の黒板は一年は組と裏表で共有していて傷みが早いので、教室の天井裏に替えが備えてあるのですよ。防火や防音や防諜の間仕切り壁代わりにもなりますしね」
三木ヱ門が悲鳴を上げて飛び退いたことに全く頓着せず、不意にゆらっと歪んだ宙空から突然出現した斜堂が淡々と説明した。口をぱくぱくさせるばかりの三木ヱ門が喋れるようになるのを待つつもりなのか、それきり口を閉ざし、すんと小さく鼻を鳴らす。
「こ、こ、こ、光学迷彩?」
やっと三木ヱ門が声を出すと、斜堂は口元だけでちらりと笑った。
「失礼な。普通に廊下の向こうから歩いて来ましたよ」
私が声を出すまで君が私を認識しなかっただけですと、もっともらしい顔で言う。視界には入っていたでしょうから、見えているけれど「見て」いなかったのです。
「そうなんですか? ……いや、でも、私は考えていることを口に出していなかったのに、どうして黒板のことを……」
「どうして、ろ組とは組の黒板はあんなおかしな構造に作ったんでしょうねえ。あれでは黒板と壁の間に物を隠すこともできませんし」
「はい?」
頭の中を疑問符でいっぱいにしている三木ヱ門に構わず問わず語りをする斜堂は、三木ヱ門の思わずの反問も聞こえていないように受け流し、「別に何を隠す予定があるわけでもないんですが」とうそぶいて、それから横を向いてコンコンと咳をした。
口元を覆った手にはいつの間にか薄紙がある。それを妙に恭しいような手つきでくしゃくしゃと丸めて袂へ落とし込み、やや掠れた声になって、
「あそこの納戸に用があったんですか」
と掬うような目付きをした。
たぶん斜堂には詰問しているつもりはない。しかし、ひょろりと立っているだけなのに言い様のない圧迫感がある。言い訳をしようとして、三木ヱ門は口の中が乾いていることに気が付いた。
「この戸は開くのかな、と――何となく気になっただけで、用はありません」
「そうですか。しかし、納戸や倉庫を無闇に開けてはいけませんよ」
「はい。申し訳ありません」
「なにが"いる"か分からないんですから」
「ふぇっ?」
素っ頓狂な声を上げる三木ヱ門に、また口の形だけで笑いかけて、斜堂はするすると廊下の向こうへ歩いて行ってしまう。
表で賑やかに鳴き交わすすずめの声が聞こえて来るまで、三木ヱ門は魂を抜かれたようにその場に立ち尽くしていた。


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