これだけ轍が深いとなると、余程の重さだったのか。
荷台に積んだ箱の高さは三木ヱ門の身長を越す程ではなかった。箱の大きさからして、中身もそう大きなものは入らない。金属製の手裏剣や暗器の類か、それとも重くてかさばる皿や食器か、そんなものをどこへ運ぼうとしていたのか――
それに、今の下級生たちは一体誰だ。
考えるのはよそうと決めたばかりなのに妙に気になって、轍を見下ろしてしばし立ち尽くす。
じっと俯いたその後頭部に、何かがこつんと当たった。
「ん?」
「そこの四年、走れーっ!!」
三木ヱ門が上を向こうとしたのと同時に、校舎の上階から緊迫した声が降って来た。
反射的に大きく前へ飛び出しそのまま全速力で走る。ほとんど間をおかずに、背後から重いものが地面に叩き付けられる不穏な音がした。
「おぉーい! 無事かあ!」
校舎から十五間ほども離れてから足を止めた三木ヱ門は、呼びかける声に片手を上げて応え、振り返って目を剥いた。
さっきまで立っていたまさにその場所に、真っ二つに割れた黒板と、ひしゃげた滑車付きの蜘蛛梯子が落ちている。
逃げるのが少しでも遅れたら黒板が頭の上に落ちて来たんだ――と悟った途端、三木ヱ門の額と言わず背中と言わず、冷たい汗がどっと噴き出す。それを袖で拭いつつ見上げると、一年生の教室がある三階の窓から心配そうな顔を覗かせているのは、日向と伏木蔵と怪士丸――と言うことはあそこは一年ろ組の教室だ――と、小松田だった。
「田村くーん、ごめーん」
顔の前で手を合わせた小松田が大声で言う。
この台詞を聞くのは今日二回目だ。
「黒板、どうしたんですか」
そう尋ね、砕けた黒板にこわごわ近寄り、飛び散った破片にあらためてぞっとした。一歩間違ったら、自分の頭がこうなっていたかもしれないのだ。
「いや、すまんすまん。表面の傷みがあんまりひどくなったので、黒板を新しいものと付け替えたんだが、ついでに蜘蛛梯子の使い方をおさらいしようとしてな」
「古い黒板を窓から下へ下ろそうとしたんですけど、蜘蛛梯子の取り付けがまずくて」
「おまけに綱が古くなってて、窓の外へ出そうとしただけでビキビキ割れ始めちゃって、危ないから教室の中へ戻そうとしたら」
「様子を見に来た僕が出入り口の敷居につまずいて四人にぶつかって、その勢いで綱が切れちゃった」
日向、怪士丸、伏木蔵が順番に説明し、最後の小松田はそう言うと、心底申し訳なさそうに首を縮めた。