「……まあ、その水飴が実は蜜漬けの薬だったとして、三ヶ月は手を付けてはいけないと言うのが気になるな」
三ヶ月を過ぎたら、その副作用がとんでもないことになりそうな蜜漬けを食べても大丈夫だということなのか。小平太いわく甘くて爽やかな匂いのする蜜であるそうなので、時間が経って薬効が薄れるかどうかしたら、ただの香りのいいおいしいおやつになるのかもしれない。
はたまた、放置している三ヶ月の間にこっそり回収するのか。
「あとで回収するなら、一平はみんなに"水飴を貰った"なんて言わないで、部屋の押入れの隅にでも内緒で隠しておくはずです」
左吉が異議を唱え、団蔵もそれに頷く。
「そういう話になっているのなら、虎若も黙ってたと思います。――ああでも、万が一中身がバレた時の予防線なのかな」
「は組は他人の私物を詮索するのか? それって、いやらしいぞ」
「普通はしないけどさ。部屋の中が散らかってごっちゃごちゃになった時なんか、フタがしてある箱とか開けてみて中を確かめるだろ。これ何ー、これ誰のーって」
「しないね。い組は散らかさないから。と言うか、散らかしたものに紛れて瓶の在り処が分からなくなったんじゃないだろうな」
団蔵と虎若の部屋は、兵太夫と三治郎の部屋とは別方向の危険地帯だって専らの噂だぞ。
当たらずとも遠からずの突っ込みに団蔵が一瞬絶句し、吹き出しそうになった三木ヱ門が横を向く。それで気が付いたが、少し離れた陽だまりで本当にすずめが遊んでいるのが見えた。
こんな枯れた築山に餌はなかろうに――と思っている間に、団蔵が立ち直る。
「回収するにしても、こっそり瓶を取り替えるって方法もある」
「そのやり方だと本物の水飴を別に用意しなきゃならないぞ。安いものじゃないのに」
「それこそ保健の"裏ルート"で買えばいいじゃないか」
「あ、そうか。一平たちは中身が何か知ってるのかな? 知らないで渡されただけなのかも」
「一平の瓶の中を覗いて見ることはできない?」
「無理だよ。厳重に封をしてるもの。虎若の方こそ隙がありそうじゃないか」
「こっちは無理だ。だって、ものがない――」
あ、と団蔵が口を抑える。
左吉は何も言わず、やれやれと言いたげな表情でただ首をすくめた。