「僕は、それは善法寺先輩に頂いたものだと思います」
きりっとした顔を上げて左吉が言い切る。
謎のルート、もしくは謎のお金で大量の薬種と一緒に買った水飴を、保健・生物・火薬(・学級委員長、の可能性はまだ捨てられない)の共謀の中でなにがしかの役割を果たした生物委員の一年生に、ご褒美か口止めとして分けてくれたに違いない。しばらく手を付けちゃいけないというのはたぶん、まだ糖分が水分と馴染んでなくてしゃばしゃばしてるとか、そんなことだ。
「そうかなー。……とろとろしてたけどな」
ぼそっと団蔵が言う。それを聞きとがめて振り向いた佐吉に見えないように、三木ヱ門は団蔵に向かって顔をしかめてみせて、わざとらしく咳払いをした。
「水飴は単にご褒美、という線もあるか。それは思いつかなかった」
「ということは」
おやあんな所にすずめがいる、などととぼける団蔵を胡散臭そうに見ていた左吉は、三木ヱ門に再び正対すると器用に片方の眉を釣り上げた。
「先輩には別のお考えがあったのですね?」
「蜜漬けの薬を一年生が預かって隠している可能性を考えていた」
その薬の効能はいかなるものかと、それをひと口失敬した小平太のここ一ヶ月の活躍例をあげつつ説明する。廊下の大穴は床下から突き破られたものと聞いて、左吉は「うわぁ」とのけぞった。
「七松先輩は元から人間離れした体力なのに、更に体力増強剤なんて使ったらヒトの枠から外れます。人類の夜明けが来てしまいますよ」
「……左吉って結構、口が悪いな」
「でも、その蜜漬けが確かに薬だと確定しているわけではないんですね。例えば、ひょっとするとそれは"鼻の薬"だったかもしれない」
このひと月あまりの小平太の爆発的な活動ぶりが鍛錬の効果だけではないという理由には少々弱い。格好をつけるように腕を組んで、左吉が慎重な口ぶりで言う。
「一年生の長屋では住み着いている生き物たちが元気だそうだな」
「へ? ええ、はい、蟻が団体で束柱を噛み破ったり、池の亀が地上をダッシュしたりしてますが」
生き物たちがその有様なのはおそらく、誰かが長屋でぶち撒けた蜜漬けを舐めたからだ。
とは三木ヱ門は言わず、まだすずめを観察する振りをしている団蔵の横顔をじろりと見た。