「そう言えば、田村先輩は善法寺先輩を探しておいででしたね」
こけた拍子に懐からこぼれそうになった書き取りドリルを押し込み、団蔵が言う。
「うん。件の如しで行方を追っていたんだが、薬草園から一平と一緒に焔硝蔵の方へ向かったあとの動きが分からなくて困っている」
「一平? 一年い組のですか」
いつまで繋いでるんだよと、団蔵の手をぺっと振り落とした左吉が怪訝な顔をする。
「一平は生物委員です。それがどうして保健委員長と……あ」
「あ、って?」
「今月の始め、一平が貰い物だって言って水飴を持って来たんです」
「あー」
三木ヱ門と同時にそう声を伸ばした団蔵が、ついでにくるりと目を回す。
「虎若も持って来たな。瓶一杯ぶんの水飴」
「それ、もう食べちゃったか?」
「……んー。ううん」
食べたのは床と上着と虫やねずみたちだ。そう言ったら左吉に思いっ切り鼻で笑われるのは分かっているようで、団蔵は曖昧に言葉を濁し、ちらっと三木ヱ門を見上げた。
左吉は何故か、感心した様子で「ふうん」と顎を引いた。
「は組のことだから、飛びついてさっさと食べちゃってると思った」
「どういうことだ? お前たちは甘いものは好きだろうし、好きなものはすぐ食べたいだろう」
団蔵の無言の懇願を察した三木ヱ門がそ知らぬ顔で口を挟む。
「ただの水飴じゃないから、手入れをしながら最低でも三ヶ月は寝かせてからじゃないと、食べられないんだそうです」
「酒か味噌みたいだな」
「発酵させてるのとは違うみたいですけど……。でも、水飴はそのまま食べたらおやつだけど、乾かして粉にすると膠飴(こうい)という滋養強壮や胃を丈夫にする薬になります」
生物委員の一年生が"貰って来た"水飴は薬の原料になる。
それでは、そんな貴重な水飴をくれたのは一体誰か?