体力増強剤の蜜漬け薬のように過去の失敗作から得た着想があったとしても、劇的に効果のある新薬をすぐに作り出すことは難しい。しかし有り物の薬でその場しのぎをしたら、他の保健委員や薬について知見がある生徒にたちまちバレる。
どちらにしても、「鼻の薬」は本当にあるのか、無いのなら何故思わせ振りな事を口にしたのかと、保健委員長に対する不審が広がる。
疑惑の渦中に放り込まれた伊作はおそらく――保身だのごまかしの手段を講じる前に、まずひとしきりうろたえる。
そうなったところで会計委員会の出番だ。
鼻の薬の「の」を抜くとすなわち鼻薬、言い換えればこっそりやり取りする後ろ暗い金のことを指すけれど、まさか生徒目標のひとつに正心を標榜する忍術学園の最上級生がそんなはしたない真似をする訳がありませんよね。ところで最近医務室の薬棚はとても充実しているようで、購入予算を支給する会計委員会としても大変喜ばしい。随分と高直な薬種も揃っていますが、きっと少ない予算をやりくりして生徒のためになんとか都合をつけてくださったのでしょう、そのご尽力に頭が下がります。いやいやご謙遜なさらずとも結構です、ご苦労大いにお察し致します。
時に、とてもいい鼻薬とは一体何のことをおっしゃったのか、きりきり白状して頂きましょうか。