「――ですよね、先輩?」
「うん……そうだけど」
ポカンとしたまま三木ヱ門が頷くと、団蔵はまだ不満顔の左吉に諭すように言った。
「そういうのはさ。大人が話してくれるまで、こっちからは尋ねないんだよ」
子供のうちに聞かない方がいい事だっていっぱいあるんだから。大人になったら嫌でも知っちゃうようなことなら、尚更さ。
「……は組に説教されるなんて」
そう言って口を尖らせつつも、左吉は一応説得を受け入れて引き下がる。
へえ、と声に出さず三木ヱ門は感心した。
三歳しか年の違わない後輩に大人扱いされるのも面映いが、話し手の雰囲気を敏感に察し引くところはさっと引く呼吸は、馬借衆の大人に囲まれて育つうち身に付いたものだろうか。正体の知れない荷を運ぶ時に、これは何かと大人に尋ねてもすらりと答えを貰えなかったりして拗ねたのを、清八辺りにさっきの言葉で宥められた――とか。
「たまに変なとこで世間ずれしてるよな、団蔵って」
「そうかなぁ? 勉強なら左吉のほうがずっとできるじゃん」
「そうだけど。いや、そういうのと違ってさ」
「あ」
今度はつい声が出た。団蔵と左吉が一斉に振り向いたので、いや何でもないと手を振ってごまかす。
そう言えば以前、計算作業中の他愛ない雑談に団蔵がぽろっと言った言葉の意味が分からなくて、全員の手が止まったことがある。口にした当人もただ言っただけで意味は知らず、他の委員同様にきょとんとするばかりだったが、ただひとり解した委員長は耳まで赤くなった。
馬借衆が話しているのを聞きかじったというその言葉はつまり、潮江文次郎をして赤面したきり口をつぐませるようなものだった、らしいのだが、正直なところ三木ヱ門は未だにその意味を知らない。誰かに尋ねる訳にはいかないのは委員長の反応から明らかなので、いつか分かる日を多少の恐れと共に気長に待っている。
無邪気ってやつは実に無敵だ。
……無敵なら、使わない手はない。
「とにかく今はそこを伏せておく。それで、お前たちにやって貰いたいことは、"言い触らし"だ」