まあ、つい誇らしげな口調になってしまうのはただの習性で、別に一年生に「さすが先輩スゴイ偉い」と褒めそやされたい訳ではない。ないったら無い。
気を取り直し、図書の「同じ本五十冊」や作法の「鳥籠代」、体育の領収書紛失、用具の予算にまつわる噂が本当だったことを手早く話す。
「……で、な、どうも実態が掴めないのが、保健と火薬と学級委員長委員会と――それに生物も、どうも臭い」
「そりゃそうだ。カメムシなんて飼ってるから」
「ミイデラゴミムシもいるし」
そう言えば以前に安藤先生の部屋で脱走したカメムシはまだ潜んでるのかな、次の予算会議の時に湧いて出て来たらやだなあ。生物委員会のことだから、指笛ひとつであちこちに隠れている虫を呼び出して突撃させてくるかも。うわあ。
「話を元に戻していいかな」
「どーぞー」
臭いというのはそういう意味じゃない、と三木ヱ門は膝をついて屈み、握っていた拳を開いて乾いた土の上に指で簡単な図を描いた。
額をさすりながら団蔵と左吉も図を囲むようにしてしゃがみ、三木ヱ門の手元を覗き込む。
「これはまだ確定じゃないが、用具の予算を吸い上げたのは生物らしい。その生物はどうやら保健――と言うより、保健委員長の善法寺先輩と表沙汰にできない繋がりがあって、その間には何らかの利益供与が介在している」
ひとつの丸の中に一回り小さい丸を描き入れ、少し離れた所に打った点とその二重丸を線で結んで三木ヱ門が言うと、団蔵が芝居がかった仕草で大きく頷いた。
「それって風邪薬ですね」
「鼻薬だ」
しかつめらしく難しいことを言おうとした団蔵を左吉が冷静に訂正する。袖の下とも言いますねと付け加え、鼻先を反らすような顔をしたので、団蔵はきゅっと眉をしかめ口を開こうとした。
その機先を制して、三木ヱ門は図の一点をトンと指先で叩いた。
「その利益供与はおそらく、この委員会にも及んでいる」