理屈をすっとばして行動するというのもどうなのかと三木ヱ門が呆気に取られている間に、言い合う声と足音がばたばたと帰って来た。
「えーい、離せ! 僕は明日の予習をしたいんだ、は組の遊びに付き合ってる暇はない!」
「だからー、遊びじゃないんだってば」
「藪から棒に"忍者ごっこやろう"なんて、遊びでなくて何なんだよ!」
団蔵にがっちり腕を取られた左吉は左手に読みさしだったらしい本を持ったままで、半ば引きずられるように走りながら文句をぶち撒けていたが、目を丸くして廊下に立っている三木ヱ門に気がつくと急に口をつぐんだ。駆け足を緩めて立ち止まり、団蔵の手を振り払い居住まいを正して、澄ました顔を作って会釈する。
「田村先輩、こんにちは。下級生長屋に御用ですか」
言いながら頭を下げたついでに廊下の大穴が目に入ったのか、一瞬「やれやれ」と言いたげな表情をした。
吹っ飛んだ床板と火器マニアの先輩を組み合わせて何をどう推理したか容易に想像がつく。
「床下に持ち込んだ小型火砲の暴発じゃないぞ。言っておくけど」
「……え、そうなんで……えー、と、そんなことは考えてません」
三木ヱ門の低い声に呆気なく目を泳がせる左吉をよそに、「連れて来ました」と団蔵が元気良く報告する。