今度は何日徹夜になるのかなあと悲壮に呟く。
妙な記述のある報告書を提出してきた8つの委員会のうち5つは内容を確認できたが、保健と火薬、それに学級委員長は予算の使途が不透明なままだ。が、生物と結んでいる保健は更に火薬とも繋がりがあるらしく、こうなって来ると、一度は理由を納得した生物の「鳥の餌代」も疑わしく見えてくる。
「まさか、"つづら"もどこかに噛んでくるのかな」
「つづらが噛み付くんですか!?」
「えっ?」
三木ヱ門の独り言に団蔵が素っ頓狂な声を出し、その声に驚いた三木ヱ門が我に返る。
しばし二人で顔を見合わせた。
「……今、暇か?」
じいっと団蔵に目を据えたまま三木ヱ門が尋ねると、団蔵はこっくり頷こうとして、慌てて「はい」と答えた。
その首根っこを掴んでぐいと引き寄せ、三木ヱ門は低い声で囁いた。
「実は、いくつかの委員会が連携して、予算を不正に使用している疑いがある」
「ふせーにしよー、ですか」
聞きなれない外国の言葉を口先だけで真似るように、団蔵がオウム返しをする。
「そうだ。そして、会計委員はその実態を明かす必要がある」
「……監査の前に?」
「もっともらしい理屈をつけて書類上は問題がないように繕ってあるんだ。監査に入ってしまうと、かえって建前を押し通して言い抜ける機会を与えることになりかねん」
ここはひとつ会計委員の手で諜報活動といこうじゃないか。
内緒話を聞きながら書き取りドリルを両手でこね回していた団蔵は、ひゃー、と小さく歓声を上げた。左門と何かあったのかと尋ねた時よりも一層、目がぴかぴかと輝く。
「それって何だかすっごく忍者みたいですね!」
「"みたい"じゃないだろ、"みたい"じゃ」
「左吉も呼んで来ていいですか?」
あいつ実践より理屈が先に来る頭でっかちだからこういう時は知恵袋で役に立ちますよう――と言いながら、三木ヱ門の許可を待たずに既に駆け出している。