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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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制服の背中に棒っ切れでも突っ込まれたようにしゃちほこばって、踏み出そうとした右足を床に下ろすこともできずにいる後ろ姿の作兵衛に、三木ヱ門は一転して落ち着いた声で呼び掛けた。
「僕は石火矢に飾りを付けたりしない」
感心なことにぐらつきもせず片足立ちしている作兵衛は、鳥のようにカクカクとほんのわずか首を回した。
「だから、作兵衛がたまたま鹿子の前を通った時にそこで何かがあったとして、僕が怒る理由は何もない」
緑色の頭巾をきちんと被った俯き気味の後ろ頭の上で、子馬の尻尾に似た結髪がさわりと揺れる。
「まあ、無断で鹿子に手をつけた事についてはちょっと覚悟しておけ」
「……あの」
とうとう両足で廊下に立った作兵衛は、それでも随分ためらいながら、一寸刻みにそろりそろりと体ごと振り返った。三木ヱ門と左門とちゃっかり団蔵までそれぞれに子細らしい顔つきを並べてそこに立っているのを見て、やや怯んだ顔つきになる。
「そうおっしゃるということは、事の次第はとうに御存知なんですか」
「紆余曲折して、どうやらな」
「全部全てすりっとまるっと」
「ごりっとどこまでも」
お見通しだー! と三木ヱ門の右で調子づく左門と訳も分からずそれに乗る左の団蔵の頭の天辺に拳骨を落として、目を丸くする作兵衛に「そう言う訳で」と顔を向ける。
「作兵衛は僕から逃げる必要も、何かを申し訳ながって気に病む必要もない」
「……本当にお見通しなんだ」
口の中で呟いた作兵衛は感嘆まじりに溜息をつき、強張りっぱなしだった肩の力をようやく抜いた。
左右の後輩の頭頂部にぐりぐり拳を押し付けながら、ところで、と三木ヱ門は話を変える。
「学園に帰って来てから、食満先輩には会ったか? もう山向こうの村から戻っておられるんだが」
「委員長ですか。……いいえ。会っていません」
「ふむ」
ふと暗い目になって口早に答える作兵衛に、三木ヱ門は小さく頷いた。
留三郎は乱太郎と左近のタッグから逃げ出すのに、思った以上に手間を食ったようだ。仲裁に入ってもらう前に事態は解決してしまった。……だからと言って、"鼻薬"の件がチャラにはならないだろうなぁ。
「――なら、食満先輩に伝言を頼む。急ぎじゃないから、いつでも会った時に伝えてくれればいい」
「はあ」
"なら"って何だ、と一瞬表情に疑問がよぎった作兵衛は気の抜けた声を出してぱちぱちと瞬きし、自分で良ければと殊勝に付け加えた。
「内容はこうだ。――逃げたすずめは懐に入りました、って」
「はあ」
さっきと同じ言葉を、今度は語尾をやや上げて作兵衛が繰り返す。
「それだけ? で、いいんですか?」
「それだけ。ああそうだ、ついでに"朴念仁!"も」
「へ?」
首をひねりすぎて一回転しそうな作兵衛に、くれぐれも食満先輩の顔をしっかり見ながら大声で言うようにと念を押して、行き掛けの駄賃に左門も押し付けて、背中を押し出すようにして追いやる。

どうにかこれで作兵衛の逃走劇は決着したようだ。

「……ボクネンジンって、なに人ですか」
廊下の向こうへ三年生たちが消えるのを見送り、やれやれと両手を腰に当てて一息ついた三木ヱ門の左で、頭をさすりながら団蔵が言った。



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