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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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更に言うと、作兵衛は木から落ちる瞬間はきっと見ていない。鹿子の前に来かかり、どこからか鳴った音に振り向いた時に、地面に落ちた金の輪っかと鹿子に呑まれていく何か綺麗なものをちらりと見ただけだ。
そして、慌てた。
「なんで」
話が見えない三木ヱ門は眉を寄せ、ぞんざいに尋ねる。
「移動台に乗ったぴっかぴかの石火矢は田村先輩のものに決まっているから」
「石火矢が僕のもので、その中に綺麗なものが滑り込んだからといって、作兵衛が焦る必要はないだろ。何かが中に落ちたようだと言えばいいのに」
至極当然そうに左門が言う回答にも、得心が行かない。
だが実際、三木ヱ門に見つかった作兵衛は大いにうろたえ、文次郎と八左ヱ門の顔の三郎が揉めている間に大急ぎで逃げ出している。確かに焦り、慌てていた訳だ。
左門は偉そうに両手を腰に当て、はあーっと深い溜息をついてみせた。
「分からないかなあ。前に聞いた話によると、作兵衛は鹿子に腕を突っ込んでたことに何も言い訳をしないで逃げちゃったんでしょう」
そう言えばその事も話してあったっけと思う間に、左門はまた言い切った。
「作兵衛は先輩が飾り付けまでするほど猫可愛がりしてる鹿子を壊してしまったと思ったんです」
「待てよ。だから鹿子は飾りなんて付けてないし――、いいやもうそれは。とにかくどこも壊れてなんかなかったぞ」
何しろ大事な大事な火器のこと、少しでも異変があればすぐそれと気付くはずだ。
三木ヱ門の反論に左門はしかつめらしく首を振り、次いで、その首をひょいと傾けた。
「少し言葉足らずでしたか」
「少しだといいんだけど」
「えーとですね。鹿子本体じゃなくて、鹿子の飾りの"何か"に気付かないで袖を引っ掛けてしまったとか、あるいは自分が歩く振動で剥がれ落ちてしまった――と、」
「思い込んだのか」
まずいまずいえらいことをしちまったどうしよう壊したのがバレたら怒られるどうにかしてすぐ直さなくちゃ田村先輩が帰って来る前に! と泡を食って蟹鐶を拾い、しゃにむに鹿子に腕を突っ込んだが、砲身が長くてとても底まで手が届かない。ひとりだから三郎次とタカ丸がしてくれたように尾部を持ち上げる事もできない。三木ヱ門はいつ戻って来るかわからない。あわあわしている内に戻って来てしまって、案の定、一瞥するなり怒った顔をした。
そりゃそうだ。だってまるで意味不明な光景だったんだもの。
そこへ通り掛かった八左ヱ門――中身は三郎――が、不機嫌な三木ヱ門と困り果てている作兵衛をなだめている最中に、
「"食満先輩に"――って言ったな。僕が」
小さなものから大きなものまでなんでもござれの修理のスペシャリストの名前を口にしたことで、作兵衛はいよいよ確信してしまった。
やっぱりこのカノン砲はどこかが壊れたんだ!
「……腕が抜けないなら、食満先輩に知らせてヌルヌルブレンドで何とかしてもらおうか、と言うつもりだったんだけど」
「言葉足らずでしたね」
したり顔で言う左門の額をぺちんと張った。


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