「それで、だ。作兵衛がつい今しがたこの金の蟹鐶を落とすより前に、鹿子の中に入り込んでいた、丁度これと対になるような小さい玉の飾りを拾おうとしていたのを見かけたんだ」
「鹿子ってあの、でかくて重くて大口径のカノン砲ですね」
両手で砲口の大きさを示して左門が言う。そして、変な顔をした。
「先輩には石火矢におシャレをさせる趣味もあったんですか」
「”も”ってどういう意味だ」
鹿子やユリコやさち子に春子、誰も皆余計な装飾がないからこそ容姿端麗なのだと言い掛けて、ふと既視感にとらわれる。
三郎次と久々知先輩にも似たようなことを言われたっけ。
と言うことは……他の学年にとって、僕はそんなイメージなのか。名前をつけて可愛がっている石火矢を、曇りひとつなく磨き上げるだけでは飽き足らず、金銀宝石や花やリボンで飾り付けて喜んでいるような?
ぶるるる、と首を振った。
「その飾りは僕のじゃない。それだって学生が持つような安い物じゃなかったんだ。知らない間に鹿子の中に入っていて、どこから来たものか分からない」
「それじゃ作兵衛は落とし物を拾ったんだ」
聞いた話をどう繋げて組み立てたのか、蟹鐶と玉の飾りが一緒に落ちて来て、蟹鐶は地面に落ちて飾りは鹿子の中に落ちるのを見たんですと、作兵衛でもないのに左門が断言する。だから二つで一組になるものだって分かったから、とりあえず蟹鐶を拾って、それから鹿子に腕を突っ込んで飾りを取ろうとしたんだ。
「どこから落ちるんだ。誰が落とすんだ? カラスか?」
「なんで急にカラスが出て来るんですか」
左門が侮るように眉をそびやかし、三木ヱ門は首をすくめる。僕じゃなくて三郎次の説だ。光物好きカラス盗っ人説。
「鹿子は砲口を上に向けて、木の下に置いてありましたよね」
体育委員会が掘り進んできた塹壕が落盤して、その中で滝夜叉丸から左門を預かって地上へ這い上がった時、確かに鹿子は木陰でひとり静かに待っていた。指を立てて確認する左門に三木ヱ門が頷く。
「作兵衛が鹿子のそばをたまたま通りかかった時――」
「僕が鹿子の手入れを終えて、掃除道具を片づけに行っている間、だな」
「――その時に、木の上から落ちたんです」
小さなきらきらしたものがふたつ、かちゃん、ことん、と。