ごりごりと頭を掻きながら会計委員たちのやり取りを聞いていた小平太は、ふと恐れ入ったふうに首をすくめた。
「盗ったのどうのはなんだかよく分からんが、しかし、私も文次郎に怒られるな」
「へ?」
手回し良く携帯していた縄で三木ヱ門にくくられながら、左門が首をひねる。一重、二重、おまけに三重とほん結びを厳重に重ねていた三木ヱ門はちらりと小平太を横目で見て、言った。
「変装ですね」
「おお。あれは良くできたぞ」
即座に屈託のない声が返ってくる。小平太に悪びれる様子は全く見当たらず、肩透かしを食った三木ヱ門の顔が面白かったと、楽しそうに笑いさえする。
山本の伝達役を務めたくせに、その件で文次郎が災難にあった――とは未だ気付いていないらしい。
「ひと月ほど前、伊作が隠してた木の実の蜜漬けをひとつ失敬したんだよなあ」
かじったらひどく渋くて、見た目と匂いほど美味くはなかった、と舌を出す。