物凄い大声が聞こえたのと同時に目の前の床板がはね跳び、廊下の下から土砂が巻き上がった。
「なっ!?」
床下で火薬が爆発したと咄嗟に思った。
が、硝煙や何かが燃えたにおいはしない。反射的に飛び退った三木ヱ門はばらばらと落ちてくる小石や土くれを浴びながら、廊下に這い出してくる人影に目を凝らした。
「……なまつ先輩?」
「よお」
泥だらけの格好で床下から現れた小平太は唖然とした表情の三木ヱ門を見てニッと笑った。水から上がった犬のように身震いして伸びをすると、少し調子外れな鼻歌を機嫌良さそうに歌いながら肩を大きく回し、もうひとつ伸びをする。
「あー、軽い軽い」
その場で二、三度跳び上がって、満足気に言う。
助走もなく驚くほど高い跳躍をしたのに目を瞠りつつ、三木ヱ門は恐る恐る尋ねた。
「ここまで地中を掘り進んで来られたのですか?」
「うん」
何でもない事のように小平太が頷く。
「体育委員会の今日の活動は終わったのでは……」
「うん。本当は水練の後に登攀もやりたかったんだが、滝夜叉丸に"下級生は人間だ"って凄い剣幕で止められて、やめた」
その台詞も大概だが怒りもしない小平太も鷹揚だ。……それにしても体育委員たちは、この寒空の中で本当に泳いだのか。
「だけど物足りなかったから、今は自主練中だ。文次郎に会ったら混ざりに来いって言っといてくれ」
「……潮江先輩も人間です」
一晩中鍛錬に駆け回る持久力はあっても、地中から床板をぶち抜いて飛び出すほどの馬鹿力は、ない。と思う。
最近、七松先輩の体力が人間の限界を超えてきたらしい――と、そう言えばきり丸が言っていた。
それを思い出したのと同時に、モモンガの姿がぱっと頭に浮かんだ。どういう関連があって、と一瞬悩み、さっき久作が「モモンガが天井裏から屋根を破って飛び立った」と言ったからだと思い当たる。
忍たま長屋に住み着く生き物たちがやけに元気になった時期と、小平太の人間離れの仕方がいよいよ底抜けになってきた時期がかぶるのは、果たして偶然か?
「ところで先程、それはないと叫んだのは――」
「ん、何のことだ? 私ではないぞ」
「僕です!」
廊下に空いた大穴の向こう側で、降って来た土砂に埋もれていた左門ががばりと飛び起きた。
「お前、部屋でじっとしていたんじゃなかったのか」
「厠に行きましたがそんなことはどうでもいいんです。作兵衛は盗みなど致しませんっ」
忍術は智謀計略を使い又石垣を登り鍵を外して忍び込む故に盗賊の術に近いそれ故に忍者にとって一番大事なのは正心すなわち正しい心なのだ!
こめかみを膨らませて一息に言い切った左門が目玉をぐりぐりさせて三木ヱ門を睨み、小平太が「ほー」と気の抜けた声を出して感心する。
「委員長の教えが浸透してるな、会計は」
「分かってる。失言だ。取り消す。僕が悪かった」
謝る三木ヱ門に、左門は「ところでっ」と語気鋭く言葉を続けた。
「自室に帰れませんのでお手数ですが同道して頂けるととても有り難いのですが!」
「……はいよ」