見習う点や学ぶべきところは沢山あるけれど、二代目鍛錬バカを襲名するのはちょっと遠慮したい。もっとも、一年生や三年生だって「二代目火器マニアを拝命するのはごめんこうむる」と口をそろえるだろうけれど。
その三年生は、さて、ちゃんと部屋で大人しくしているだろうか。
歩きながら手甲に挟んでいた金の蟹鐶と金輪を手の上に引き出し、改めてそれを眺める。
ふたつの小さな金具には下の方に紐を通す穴が開いていて、それがぐんにゃりと曲がっている。
「無垢の金は柔らかいからな」
爪の先でつついて呟く。
小さくて豪奢な飾りには細い絹の組紐が下がっていた。
その紐の両端にはこの金の留め具が付いていたが、何かの拍子に強い力がかかって穴が歪んで紐が外れてしまい、飾りと留め具が別々になった――そして、金の留め具はどういう経緯でか作兵衛が手にし、飾りは鹿子の中に滑り込んだ。
そんなところだろうという予測はできるが、髪に結ぶものとも猫の首輪ともつかない飾りの用途やそもそもの出所、作兵衛が砲腔の中に落ちている飾りに手を伸ばし、それを目撃した鹿子の持ち主の三木ヱ門に事情も話さず逃げ出した理由は、見当もつかない。
ひょっとして、無断で鹿子に触ったから僕が怒ると思ったのか?
「そこまで狭量じゃないつもりだけどなあ」
いたずらや意味もなくベタベタ触られたらいい気はしないけれど、砲腔に何か落ちているのだと言われたら、確かめはすれど怒りはしない。異物が入り込んでいたらいざ発射の時に危険極まりないのだから、むしろ気付いてくれてありがとうと言いたいくらいだ。
しかし作兵衛は飾りを拾い上げることはできず、かと言って不審がる三木ヱ門に言い訳もせず、ただ逃げた。
かと言って、文次郎に追われて薬草園へ逃げ込んでいた三郎のように三木ヱ門の追及を恐れてどこかに閉じこもっているわけでもなく、遁走したあとも校庭をうろついていた。
金の留め具と対になる、あの飾り――ひいてはそれを呑み込んでいる鹿子を探していた、のか?
散歩はもう無理だと悟った時点で今日の連れの鹿子は「寝間」へ入れてしまったが、いつもの三木ヱ門なら大抵、学園内で石火矢を引いて歩いている。作兵衛はあの騒ぎの後に元の場所へこっそり戻って来て、繋いであった木の下から鹿子がいなくなっているのに気付き、まさか格納してしまったとは思わず焦ったのかもしれない。
こんな高価な飾りは作兵衛の私物じゃない、と留三郎と言った。
人目につかない砲腔の中に落ちていて、そこにそれがあると鹿子の持ち主にも言えなくて、拾おうと懸命になっていた、学生の小遣いではとても買えない高価なもの――繋げていくと、嫌な考えがじわりと湧いて出た。
そんなことをするとは思わない。思わないが。
「作兵衛がどこかから盗み出して鹿子に隠した――か、うっかり落とした――?」
「それはない!」