※2/8 一部修正しました。久作と突庵は44巻で顔を合わせてたじゃないかーっ
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身の丈よりも大きな荷物を背負って現場をうろつく忍者と言えば彼らしかいない。
「あなたはもしや、噂に聞くオニタケ城のへっぽこ忍者?」
三木ヱ門の失礼な誰何に、しかし風呂敷包みの主はあははと明るい笑い声を上げた。
「違うよ。僕はこちらの学園長先生の友人の曾孫で、以前教育実習でお世話になった突庵望太です。久作くんはお久し振り」
「キクラゲ城以来ですね。お元気でしたか」
「まあ、ぼちぼちね」
健康的な色をした福々しい頬を人懐っこく緩ませて久作に笑いかけ、以後よろしくと三木ヱ門に挨拶する。
有名忍者の曾孫の割には忍術のいろはが分かっていなくて教育実習は失格になり、今は派遣忍者として実務経験を積むと同時に鍛え直しているという、北石照代と並んで入門票に署名があった四文字名前の”先生”だ――と三木ヱ門は思い出した。
ずっと年下の生徒にてらいもなく頭を下げるあたりはやっぱり威厳がないが、久作とは顔見知りのようだし怪しい人ではなさそうだ。
と言うより、悪いことができる人ではなさそうだ。一年は組を全滅させかけたという北石先生とは雰囲気が違う。
「ところで、尋ねたいこととおっしゃるのは?」
重そうな荷物と突庵を見比べて三木ヱ門が促すと、包みを揺すり上げて「そうそう」と突庵が頷いた。
「学園長先生のお部屋と図書室と、ここからではどちらの方が近いのかな?」
「それなら庵です。学園長先生にご用ですか」
「うん。ちょっとお願いがあってね」
背負った包みにちらりと目をやり、きょとんとする久作と訝しげな三木ヱ門に、にこにこと愛想のいい笑みを向ける。
その笑顔の下に本心を隠しているような気配がする。何となくだが、気後れしているような、済まながっているような。
「何だかよく分からないけど、僕もこれから庵へ行くところだからご案内します。――田村先輩、失礼します」
拾い集めた書物を抱え直してぴょこんと会釈した久作は、庭に下りて突庵を伴い庵の方へ歩き去った。
ふた抱えはある風呂敷包みと背丈を超すほどの書物の山がゆらりゆらり連れ立って行くのを幾分はらはらしながら眺めていた三木ヱ門は、それが無事に柴垣の向こうへ曲がってから、ようやく作兵衛を探している最中だったことも思い出した。
「それにしても、久作は几帳面だと思っていたのに、”何だかよく分からな”くても動くんだな」
不破先輩がうつったのかと言ったのは自分だが、いつも一緒に授業を受けたり委員会活動をしていると、知らず知らずに周囲の影響を受けてしまうものなのだろう。焔硝蔵で会った久々知先輩だって、軽口の叩き方が鉢屋先輩にどこか似ていたし。
……僕も気をつけよう。影響を与えるほうは勿論、与えられるほうにも。