いろいろと厄介事に行き当たって脇においていたが、伊作と一平が薬草園から焔硝蔵の方へ向かったのは目撃者の三郎の証言から確かなのに焔硝蔵に立ち寄った形跡はなく、一平はともかく伊作がどこへ行ったのか足取りを見失って、途方に暮れている最中なのだ。
「善法寺先輩がどちらにいらっしゃるか、知っているか」
とりあえず尋ねてみると、久作は少しもためらわずに首を振った。
「さあ、分かりません。医務室かその辺の落とし穴の中か……」
「……アナンダ3号、あるのかな」
「馬鹿でかい蛇? 生物委員会がまた逃がしたんですか」
「それはアナコンダだし流石に飼育許可が出ないだろう。あれは人を噛むどころか、呑むぞ」
生物委員会といえば生き物を逃がす、と認識されている現状を聞いたら、委員長代理はさぞかし嘆くだろう。おそらく裏山の中で木下から脱走中の猿を受け取って保護したはずだが、もう学園には戻って来ているのだろうか。
すると、猿の捜索のために一平が伊作に依頼した「何か」は、使う機会がなかったのか。
「なんだあれ」
拾い残したものはないかと辺りを見回し、ふと庭先に目を向けた久作が、びっくりしたような声を上げた。
大きな風呂敷包みが木々の間からひょっこり現れ、二人のいる長屋の廊下へ向かって、枝葉に引っ掛かりながらもこもこと近付いて来る。
見慣れない不審物を警戒するべきと頭では分かっているが、どこか間の抜けた動きは曲者にしては不用心で、敵意も感じない。呆気に取られてただ見守る二人の前までやっと辿り着くと、風呂敷包み――ではなくその陰に埋もれている誰かは、脳天気な声を出した。
「やあやあ、忍たま諸君。ちょっと尋ねたいんだが」