猿の一時預かりを頼んできた貿易商から世話代を貰っていた?
それなら予算の中から「鳥の餌代」を計上する必要はない。全く無償のボランティアと言うことは無いだろうから、猿の飼育にかかった費用はあとで払ってもらえるのだろうが、今は生物委員会が立て替えているのだろう。
しかし、今月の用具委員会のように、生物委員会がバイトに精を出していたという話は聞かない。
食費その他を大幅に削られた学園の生き物たちにひもじい思いをさせないためにも、予算の他に手間賃を稼いで足りない分を補う――という必要はなかった、と言うことだ。
ところで、そもそもなぜ用具委員会は今月バイトに明け暮れているのかというと、"勝負"に負けて予算がゼロになったからだ。
そして予算不足に頭を抱えているはずの生物委員会は金策に駆け回る気配もなく、かと言って一匹の生き物も飢えさせず、毎日十分にエサを与えている。
「歯車が噛んだ」
トントンと本を揃えながら呟いた三木ヱ門に、久作が何の事かと訝しげな顔をする。
珍しい小猿がとんでもない立場にあるものだと知るまでは、猿が脱走して生物委員会が学園内外を右往左往していると聞いた留三郎は、その騒動をどこか面白がっている様子だった。
"雀用薬餌代"について、保健と生物で予算を融通し合ったんじゃないかと三木ヱ門が思い付きを口にした時は、随分と渋い顔をした。
用具の予算をかっさらっていった生物委員会が困っているのはちょっぴり痛快で、予算と生物委員会が絡んだ話を聞くのはひどく苦い――。勝負の結果に今更ぐちぐちと恨みごとを言いはしないが、そんな思いがつい表に出たのだろう。
となると、ここからはまったくの好奇心だが、八左ヱ門が一体何の勝負をどうやって留三郎に持ちかけたのかというのが気になる。
学園きっての武闘派委員長に忍術で挑むほど命知らずではないだろうし、そもそも勝ち目が薄過ぎる。両委員会とも、最上級生を除けば一年生と三年生ばかりの似たような構成だから、何かの団体戦か?
「田村先輩、手元に、」
「え?」