「図書委員会が同じ本を五十冊も買ったのはご存知でしょう?」
「うん、収支報告書で読んだ。"雀躍集"だろ」
そうです、と久作が勢い込んで頷く。
「途中抜けや続刊なしばっかりだと、いくら書物を積み上げても肝心な点が分からないということを分かって頂くために、学園長先生の庵にじゃんじゃん本や巻物を運んでいるんです」
大量の書物に埋もれた学園長先生が、図書委員が持ち込んだものはあれもこれも情報が中途半端で役に立たぬと怒り出したらしめたもの。
その半端を補うために勝ち取った予算を学園長がいいカッコするためだけに使ってしまったから、調べものをしたい皆が困っているのですと、実体験を以て思い知ってもらうのだ。
「新しい本の入荷を待っている生徒は大勢いるし、予定外の本を買う余裕はないって中在家先輩がずいぶん頑張ったのに、結局押し切られちゃったから」
「雀躍集とやらはまだ届いていないんだろう?」
「はい。だから、もしかしたら学園長先生が思い直して下さらないかって――まあ期待は薄いんですけど、少なくともささやかな嫌がらせにはなります」
急にテンションが落ちた久作が、のろのろと書物拾いに戻る。
本来回すべき必要なものに予算を回せず、横入りした厄介者に予算を食われるという構図は、今の生物委員会の状況にちょっと似ている。
久作の前で口には出せないが、そんなことを考えつつ拾い集めるのを手伝っていた三木ヱ門は、ふとその手を止めた。
元々飼っている生き物たちにかかる費用は削れないのに、預かり物の猿一匹に予算のほとんどをつぎ込まなければならなくなったから、先月に比べて「鳥の餌代」が五倍になった――と、孫兵は説明した。
おかしい。
他の生き物たちが揃って急に小食になった訳でもあるまいし、支給された予算から「鳥の餌代」を引いたわずかな残額で、どうやって「絶対に削れない費用」を賄ったんだ?