器用にぱちぱちと手を叩いた喜八郎は、庭先で地面をつついているすずめにふと目を留め、にゃーおと猫の鳴き真似をした。
驚いたすずめたちが弾かれたように飛び立っていく姿を見送って、喜八郎が言う。
「ヨーヨー記とかヨーオー記とか言う鷹の飼い方の本と首っ引きで立花先輩が鍛えたすずめ、結構いい線までいったんだよ」
「へえっ。凄いねえ」
「先輩もすずめもね。でも、イモムシやカトンボを狩って来て貰っても困るよねー」
貴族や武家の間で大流行している鷹狩りの作法を学ぶことになり、古人が書き残したテキストを手に入れ、狩場へ鷹を運ぶのに使う大きな籠――清八が背負って来た、あれだ――を買い入れ、衣装や道具も中古品を貰ったり手作りしたりでひとまず揃えた。
しかし肝心の鷹がどう伝手を辿っても用意できない。
馬十頭より鷹一羽に高い値がつくこともあるし、上流社会では進物に供されることもあるくらいの高級品だ。学園から支給される予算では到底買えるものではなく、顔の広い学園長の知人の中には鷹狩りを趣味にしているお大尽がいないこともないのだが、「ちょっと貸して」と言いかけただけで皆あさっての方角へ目を逸らし、今日はいい天気ですねなどと当たり障りの無い話題に強引に舵を切ってしまう。
「しょうがないから、テキストに書いてあるやり方ですずめや鳩を調練してみた」
その調練がまた大変で大変でと、口ぶりの割には涼しい顔で喜八郎が言う。
立花先輩はいま火器の研究よりも他のことで忙しいらしい――と久々知先輩が言っていたのは、これか。心の中で頷いて、三木ヱ門は嘆息した。
「もともと狩りをする種類の鳥じゃないのに、頑張るなあ」
「でも、すずめや鳩に集団で飛びかかられたら相当怖いな」
「ヒッチコックだ」
滝夜叉丸とタカ丸が口々に言う。それは冗談半分の口調だったが、何百何千の小さなくちばしと爪につつき回される光景を想像して、思わず三人で顔を見合わせる。
「……うわ、背筋がヒュッてした」
「鳥の集団戦法……。忍鳥って意外と有りか?」
「そういうこと言うと、また学園長先生が思い付きで無茶を言い出すぞ」
「あのさー」
ひとり庭の向こうに視線を飛ばしていた喜八郎がくるりと振り返った。さっきまでとは違う真面目な顔つきに、三人の表情も自然と引き締まる。
腕の中の冊子をひと撫でして、喜八郎が言った。
「これ、早く配んないとみんなに怒られる」
期限は明日までだよ。