「鳥籠? 作法委員会って、鳥を飼ってたっけ?」
驚いたように滝夜叉丸が言う。喜八郎は、それには首を振った。
「飼ってないよ」
「これから飼うんだよな」
だって鳥籠を買ったんだからと思いつつ三木ヱ門が話を継ぐと、喜八郎はこれにも首を振った。
「飼わないよ。実技はエア鳥でやるから」
「え? でも、あんな高、……えあとりって何?」
どの委員会が何をいくらで買ったと決算の前に公言するのは良くないと思い直し、聞き慣れない言葉にも引っかかって三木ヱ門が質問を変えると、喜八郎は幾分難しい顔をした。
「正確な作法の勉強のためには実物が必要だけど、物凄く高いから申請したって絶対に予算が出ないもん。他の経費を削って捻出できる額じゃないし、それに道具と違って一度飼ったらずっと世話をしなきゃなんないのが大変だし」
「買ったきり放ったらかしにしたら生物委員が激怒だな」
学園中の生き物の世話を一手に引き受けて、小さな虫から大きな動物まで平等に愛情を注ぐ生物委員会が、そんな非道を見過ごす訳がない。滝夜叉丸がそう言うと、喜八郎は「虫は食ってた」と呟いて少し眉をしかめた。
「だから立花先輩がすずめや鳩で代用できないか一生懸命試していらっしゃったけど、やっぱ無理だったから、結局エア鳥」
鳥に見立てているつもりなのか、タカ丸に半分持って貰って量の減った冊子を左腕でやんわりと胸に抱え込み、右手をその天辺にそっと添える。
赤ん坊をあやすようにゆらゆらと冊子を揺らす喜八郎に、首を傾げつつタカ丸が尋ねた。
「鳥の作法って、何の作法? 忍鳥っていうのがいるの?」
喜八郎はじいっとタカ丸の顔を見ると、右手を持ち上げてくるりと空中に円を描き、その中に文字を書いて、ふっと吹き飛ばす真似をした。
「丸に辻――を、タカ丸さんから引いた、のか?」
その手元を見ていた三木ヱ門が首をひねり、タカ丸はきょとんとする。同じく思案顔をしていた滝夜叉丸が、ふと呟いた。
「あ。分かった」
「それでは、正解は?」
喜八郎が促すと、滝夜叉丸はプリントの束を片手に持ち替えて、ぴっと人差し指を立てた。
「タカ丸さんは元辻刈りだ。そこから丸と辻を引いて、"鷹狩り"。――違うか?」
「あたーりー」