「……暇じゃないと言ったな。何か用事があるのか」
どん。
「……三年の富松作兵衛を見なかったか。落とし物を拾ったんだ」
だん、どん。
「……廊下を走って行くのを見かけた。あの方角なら、今頃自室だろう」
ばん。
「……そうか。ありがとう」
がたん、どん、だん。
「……どういたしまして」
ごん。
「和やかに会話する振りをしつつ足を踏み合うのはみっともない」
額を接して極低音で会話する三木ヱ門と滝夜叉丸を眺めていた喜八郎が、首を振り振り感想を述べた。据わった目で振り返った滝夜叉丸に、腕に抱えた冊子をちょっと持ち上げて見せる。
「宿題、早く配らないと、みんなに怒られるよ」
「……それもそうだ」
ぷんと顔を逸らして、滝夜叉丸が前髪を手櫛でひと梳きする。
「作兵衛の落とし物って、何?」
まだ眉が八の字を描く三木ヱ門の方を見た喜八郎が首をかしげ、あまり興味がある風でもなく尋ねる。
「小物」
「あ、そう」
横を向きながらのぶっきらぼうな答えに呆気なく頷いて、ふと二人の後ろへ目をやった。
廊下を踏み鳴らす音に紛れて気付かなかったが、誰かの足音が近づいて来ている。三木ヱ門が喜八郎の視線を何気なく追ったのと同時に、のんびりした声が言った。
「みんな集まってどうしたの。楽しそうだねえ」
「……楽しそう?」