「北石先生って……教育実習で失格になったくの一の先生か」
頭の中の書き付けを覗くような顔をして、滝夜叉丸が口を挟む。
「ああ、その人だ。今は天賦忍者協会で派遣社員をしておられるそうだが」
「その派遣忍者としてドクタケに協力した北石先生のお陰で一年は組が大変な目に遭ったと、金吾に聞いたことがある」
どの面下げて――と口の中で呟いて、滝夜叉丸はいくらか不愉快そうな表情をした。
三木ヱ門が思わず喜八郎を見ると、喜八郎も目を丸くして三木ヱ門を見た。その顔で口を尖らせてぼそっと言う。
「それっていつの話? 三木ヱ門は知ってた? 兵太夫はその話、したことない」
「団蔵もない。僕はさっき、きり丸に初めて聞いた」
「ふうぅーん」
こそこそと言い合う二人の声を聞きつけて、滝夜叉丸は急に機嫌を良くした。プリントを抱えたままで器用に肩にかかる髪をはね上げ、乱太郎が真似をした「えらい目」と同じ目をして高らかに笑う。
「それはつまり、お前たちは後輩の一年坊主に、敵状を報告するに足る上級生ではないと思われているということだな。私と違って」
喜八郎が尖らせていた口をへの字にした。
「作法委員会は塹壕ばっかり掘ってる委員会と違って神経を使う作業をするから、委員会中にお喋りしてる暇は無いんですうー」
しゃらっと三木ヱ門もそれに混ざる。
「会計委員会も計算に集中してるから雑談をする余裕なんてない。バレー委員会は呑気でいいなあ」
「なにを言う! 集中力無くしてあの怒涛の塹壕掘りや砲弾バレーについて行けると思うのか!?」
だんっと足を踏み鳴らし、滝夜叉丸が言い返した。