「はーい、いまーす。扉、閉めないでくださーい」
持って行くくらいしろと三木ヱ門に渡された縄梯子を首にかけたきり丸が、閉じ込められては大変だと棚の向こう側へバタバタと出て行く。
「あ、こら走るな! ……まったくもう!」
駆け出した勢いで床の上に積み重ねられた半切桶を蹴飛ばしたが、それが崩れる前にきり丸は角を曲がってしまう。土の床にごろごろ転がった大きな桶に通路を阻まれた三木ヱ門は、仕方なくそれを元の位置へ戻しにかかった。
「なんだ、鍵を掛け忘れちまってたのかと思ったよ。縄梯子の持ち出しか?」
戸口の人物が拍子抜けしたような声を出す。
その声に三木ヱ門は桶を抱える手を止めた。
「一文にもならない人助けです」
「なんだそれ。戸口の横に出庫表があるから、ちゃんと名前を書いとくんだぞ」
「僕の名前ですか?」
「他人の名前を書いてどうするんだよ」
「いや、そうじゃなくて……田村せんぱーい! これって、僕と先輩のどっちの署名をしたらいいですかー?」
きり丸が倉庫の奥へ向かって呼びかける。
その瞬間サッと緊張した気配が肌を刺し、三木ヱ門は咄嗟に大声を上げた。
「きり丸、作兵衛を捕まえろっ」
「へ?」
まだ転がっている桶を跳び越えた三木ヱ門が戸口の正面へ飛び出すと、立ち竦んだ作兵衛と訳も分からずそれに飛び付いたきり丸が、互いに押しのけ合っているところだった。三木ヱ門の姿が目に入ったらしい作兵衛の顔が一瞬こわばり、きり丸に掴まれて緩んだ合わせの間から、ちゃりんと音を立てて何かが落ちた。
「ゼニ!?」
倉庫の中へ転がり込んだ光るものを追って、きり丸が作兵衛からパッと飛び離れる。
その隙に身を翻した作兵衛は三木ヱ門の制止の声も聞かず、一目散に走り去ってしまった。
「……顔を見ただけで逃げられるのって結構ショックだな。と言うか、お前のその超反応は何か他の事に生かせないのか」
「ちぇっ。銭じゃないや」
三木ヱ門のじっとりした横目を気にする様子もなく、落し物を拾ったきり丸は不満そうに口を尖らせた。