生徒同士で賭け事をする是非や、小平太に匹敵するパワーが身に付く薬が本当にあったらその副作用はどれ程のものか、などと下らないことをああだこうだ言い合いながら歩くうちに、用具倉庫へたどり着く。
三木ヱ門が頑丈な錠を外して戸を引くと、整然とものが並ぶ薄暗い倉庫の中から、埃っぽいようなにおいがふわりと漂い出た。
「ただの縄より、縄梯子のほうがいいかなぁ……っくしゃん」
棚を見回していたら鼻の奥がむずっとして、慌てて口元を抑えたが間に合わない。指先が触れた自分の鼻が氷のように冷えきっているのに、思わず身震いした。
不破先輩の書物の埃を吸い込んでしまってから、どうもくしゃみづいている。乱太郎には風邪じゃないって言ったけど、空気は冷たいし埃じみてるし、用心しておかなくちゃ。
"ただ"の縄、に素早く振り向いたきり丸は、三木ヱ門の顔を見てぷっと吹き出した。
「鼻水、出てる」
「うそっ」
「うそー」
井桁模様の頭をはたこうとした手が空を切る。
攻撃をかわしたきり丸はそ知らぬ顔で棚の間を歩き回り、角を曲がった反対側から、縄梯子がありましたーと三木ヱ門を呼ばわった。
懐に手を入れ、手拭いがないことをまた思い出して、こっそり袖で鼻先を拭った三木ヱ門は仏頂面で棚の列を奥へと進む。
「どこにあるんだ」
「この棚の一番上です」
壁際に寄せた高い棚を指してきり丸が言う。精一杯背伸びをしたらギリギリで届くかな、でも踏み台を使ったほうがいいか――と辺りを見回した三木ヱ門は、ニヤニヤ顔で自分を見ているきり丸に気付き、ちょっと背中を伸ばした。
棚の前に立ち、猫でも追い払うように手を振る。
「僕が取る。下がってろ」
「えー。届きますぅ?」
「届くよ!」
はーいと返事をしてきり丸が三歩下がる。
三木ヱ門は一瞬棚を見上げて軽く膝を屈めると、垂直に跳躍した。その頂点で、上から二段目の棚板を強く叩いて更にぐうっと伸び上がり、最上段の縄梯子を難なく掴んでしなやかに着地する。
「……おおー!」
軽やかな身ごなしに目を丸くしたきり丸が、ぱちぱちと手を叩く。
「火器オタクなだけかと思ったら、田村先輩も意外と活動派なんですね」
「お前なあ。仮にも忍者なら、この程度の体術ぐらいできなくてどうする」
「へえっ。自惚れと自画自賛ばっかりじゃなくて、四年生なのは伊達じゃないんだ」
「おーまーえーなー」
「……おーい。中に誰かいるのかー?」
今度こそぶってやると身構える三木ヱ門を制するように、戸口の方で声がした。