「用具委員会が賭けに負けたという噂に、どうしてそんなに具体的な話がくっついたんだ?」
賭けはただの噂ではなく事実だったということは、留三郎の口から聞いている。しかし体面というものがあろうとその点は伏せて三木ヱ門が尋ねると、きり丸はくるりと頭巾をめくって、自分の耳を引っ張った。
「一年生って、聞き耳頭巾の守備範囲がけっこう広いんですよ」
上級生も先生たちもどうせ一年ボーズだからって油断して、僕らの前では割と無防備に色々喋るからと、耳の痛いことを言う。
「それで?」
「聞き集めた話を持ち寄ってみると、七松先輩が"クイック攻撃を覚えたから"って特にバレーに熱中してたのに前後して、用具委員が挙動不審になってた時期があって、その頃に勝負が行われたんじゃないかって」
予算がすっからかんになっちゃって、今月をどう乗り切ったらいいのか悩んでたんだろう?
そう尋ねても、しんべヱも喜三太も平太もはぐらかすばかりだけれど。
「用具委員の様子がおかしいことなんて、何かあっ……たな」
ひどく困った顔で鹿子に腕を突っ込んでいた作兵衛の姿が頭に浮かぶ。まるで意味が分からない行動だが、実はあれも予算をそっくり失ったことに関係があるというのか?
頭をひねる三木ヱ門をよそに、きり丸は喋り続ける。
「それで、なんでバレーかって言うと、塹壕掘り競争とか超遠距離駅伝じゃ体育委員会の圧勝に決まってるから、どこの委員会も受けやしません。でもバレーなら最低2対2でできるから、まだ勝負らしい勝負になる。委員全員をローテーションでコートに出す方式なら、組み合わせ次第で勝ち目はある――と思わせたんじゃないかな」
例えば金吾・四郎兵衛ペアに作兵衛・留三郎ペアが当たったら、用具の方がずっと有利だ。
きり丸の言葉に両委員会の委員たちを思い浮かべ、三木ヱ門は首を振った。
「逆に、滝夜叉丸・七松先輩ペアに一年生ペアが当たったら、不憫でならないんだが」
「それがネックなんですよねぇ。食満先輩って後輩には優しいから、七松先輩のいけどんアタックの前に下級生を晒すような事をするかなーって」
「そりゃまあ、予算が増えるのは歓迎だろうが……食満先輩は予算のために下級生を犠牲にするような人でなしじゃないだろ。超強力なドーピングでもしてなきゃ、七松先輩の人間離れしたパワーに一年や三年が対抗するのは無理だ」
「そっかー……やっぱり、無いかなあ」
つまらなそうにきり丸が口を尖らせる。
……こうだったら面白いな、だけで勝手に膨らんでいくんだから、噂の尾ひれとは怖いものだ。