貸してもらった鍵を持って用具倉庫へ向かう道々、きり丸はまだ不満気にぶつぶつと何か呟き、指を折ってはしかめ面をしている。
「人助けなのにそこまで縄を借りに行くのが嫌って、一年は組は北石先生と余程の因縁があるのか?」
確か北石が教育実習をしたのは何かとは組と張り合いたがる一年い組で、は組には学園長の知人の曾孫だという、ちょっと頼りない忍者の青年・突庵望太が来ていたはずだ。それを思い出した三木ヱ門が冗談半分にそう言うと、きり丸は何故か死んだ魚のような目をした。
「は組が全員深い谷底に落とされて本気で死ぬところだった、って因縁はありますけど、今気にしてるのはそれじゃないです」
「……すごい実戦経験をしてるんだな、お前たち」
「学園長先生って顔が広いから、いろんな職業のお友達があっちこっちいるんですよね」
宗成寺や金楽寺の和尚様、竜王丸さん、多田堂禅先生、薄口東丸先生、阿甲老師、楓さんに如月さん。両手を使って数え上げながら、きり丸の顔が次第に曇る。
「で、学園長先生のお友達だけに、皆さんお年寄りだから……、お年寄りの間で自伝を書くのが流行っちゃったりしたら、またいらない本をいっぱい買わなくちゃいけないのかなあ?」
「うーん……」
三木ヱ門も思わず腕を組んで唸る。
会計委員会はドケチで融通がきかなくて申請する予算はあれもこれもそれもどれも却下すると思われがちだが、いかに他の委員会の恨みを買おうとも、それは限りある予算を最も有効に使うにはどう配分するべきか熟慮に熟慮を重ねた末の一手なのだ。それを、生徒の自治にくちばしを突っ込んだ学園長の一声でムダ使いに費やされては、会計委員としても山ほどの怨嗟を背負って傷だらけになった甲斐がない。
「委員会の運営に必要な最低限の予算しか支給されなかった――って状況なら、学園長先生と言えども、そう無体はできないだろうけど」
「ちょびっとの金額を申請してそれが通っても、来月少ない予算で苦しむのは僕ら図書委員会です」
八方塞がりだあ、ときり丸が頭をかきむしる。
「用具委員会みたいにいっぱいバイトするか、体育委員会みたいに他の委員会の予算をぶん取るしかないのかなー」
「ちょっと待て」