元々は三木ヱ門がちょっとした親切心と好奇心から人探しをしていただけの話なのに、何気ない一言を殺気立っていた留三郎に噛み付かれたばかりに、厄介ごとが次々と降り掛かってきたのだ。
留三郎は曲者揃いの上級生の中では接しやすい先輩ではあるが、だからと言って用具委員長と二人で密謀を企てていると文次郎に疑われては後々面倒だ。不審を明らかにしようとする会計委員長の詮議の厳しさは、各委員会への会計監査でよく見知っている。
我が身を慮って嘆く三木ヱ門に、「そんな難しいもんじゃないですって」と気楽そうにきり丸が言う。
「例えば会計委員の団蔵とか左吉が田村先輩じゃなくて、体育委員の滝夜叉丸……先輩に火縄銃の撃ち方を教わりに行ってたと人づてに聞いたら、ちょっとムッとしません?」
「……、する、かも、しれない」
その状況を想像して、滝夜叉丸の哄笑を幻聴した三木ヱ門が不承不承認めると、きり丸がしたり顔で頷いた。
「でしょ? それと同じですよ。そんで今、田村先輩は焔硝蔵の方から来たでしょう。潮江先輩、向こうに何かないか確かめに行ったんですよ、きっと」
「まさか! そんな暇なことはなさらないだろ」
……けど、もし「ムッとした」のなら……。
無い裏を読まれるのは困る。困るけど……正直言って、ちょっと嬉しいような。
いやいや、何を考えてんだ僕は。
ひとつ強く頭を振って、三木ヱ門はキッときり丸を見た。
「僕は忙しいんだ。お前にかまってる時間はない。どっか行け!」
「僕は暇なんです。先輩をかまう時間があるんです。乱太郎もしんベヱも今日は委員会だから」
「あーそーかい」
「ねー、何の話をしてたんですかぁ」
どっと疲れて肩を落とす三木ヱ門に、しゃあしゃあと言い返したきり丸が内緒話の暴露をしつこく要求する。
チーム牡羊座には入会金がいると言えば諦めるか? いや、きり丸のことだ、あちこちで大量の牡羊座を集めて一儲けしようと計画を持ちかけてくるに違いない。そして、アドバイザー料として自分の入会金はチャラ! ……なんて言い出すに決まっている。
ああ面倒臭い。
「そうだ。きり丸は図書委員だろう、不破先輩が学園長の庵にたくさん書物を運んでいらしたから手伝って来いよ」
「やーですよ」
学園長と聞いた途端、きり丸は頬をふくらませ露骨に嫌そうな顔をした。