「用具委員と何をやってるんだ、お前」
「それはその……」
言いよどむ三木ヱ門に、文次郎の疑わしげな目が少し険を帯びる。
問い質されると説明に困る。猿が逃げたという話は文次郎も聞いていたが、飾りと作兵衛の関わりや怪しい鼻薬のことは知らないはずで、くれぐれも他言無用と念を押した孫兵の顔を思い出すと、医務室での話をそっくりそのまま文次郎へ伝えるのはためらわれる。それに何より、聞き耳頭巾をうずうずさせているきり丸がそばにいる。
あのー、そのー、と意味のない間繋ぎをいくつも挟んだ挙句、
「……内緒です」
と目を逸らしがちにぼそりと答えた。
「ふん」
それを聞いた文次郎が小さく鼻を鳴らす。不満を示したようにも、まあいいやと受け流したようにも聞こえて、三木ヱ門は身を縮めた。
「木下先生がどうかなさったとか、なんかそんな話だって乱太郎が言ってましたよ?」
会計委員たちの微妙にぴりぴりした空気を気にも留めず、きり丸が三木ヱ門にずいと迫る。
「そう言えば、木下先生も牡羊座ですよね。やっぱり何かあるんでしょ? 教えてくださいよう」
「ない! 少なくともお前に教えるようなことはない!」
「伊作もだな」
独り言のように文次郎が呟く。よしあっちを吐かせるか、と穏やかでない言葉がそれに続く。
「待って下さい、善法寺先輩は無関係です! あの、私たち、決して人には言えないような企てをしているわけではないんです」
「でも内緒なんだろう」
「そうおっしゃられると……そうだ、あの、収支報告書のことなんですが、生物委員会の内訳は確認できました。今お伝えしても――」
「いや」
ちらりときり丸を見て、言いかけた三木ヱ門を無造作に止め、文次郎は焔硝蔵の方を見遣った。まだ皮膚の感覚が戻らないらしく片手を上げてしきりに頬をこすっている。その表情が、気のせいかついさっきまでよりも険しい。
「後で聞く」
ぽいと投げ出すように言い、文次郎は三木ヱ門ときり丸を追い越してそれきり振り向きもせず焔硝蔵の方へ歩き去った。
「……ああ、怒らせちゃった」
「そうかなあ」
肩を落とす三木ヱ門に、きり丸が首をひねった。無邪気そうなその顔をじろりと睨む。
「お前が聞きかじりで余計なことを言うからだ!」
「いや、そうかも知れませんけど、潮江先輩のあれは僕には焼き餅に見えます」
不倶戴天の敵と自分の後輩が知らないところでよろしくやってるのが面白くなかったんじゃないですか?
「そんな馬鹿な」
一笑に付そうとした三木ヱ門の軽い笑いは、子細らしいきり丸をの顔つきを見て若干硬くなった。