声のするほうを見ると、きり丸がばたばたとこちらへ向かって駆けて来るところだった。三木ヱ門と、その横に立っている文次郎の引っ詰め髪と首の飾り結びを見て一瞬目を剥く。
「僕に何か用か? お前が気に入るような儲け話なんて知らないぞ」
やや警戒しつつ三木ヱ門が言うと、きり丸は大人ぶった仕草で人差し指を左右に振った。
「違いますよー。何か秘密の話があるんでしょ?」
「何の話だ?」
「チーム牡羊座」
問い返す三木ヱ門にわざとらしく顔を寄せ、文次郎の耳を憚るように声を潜めて、きり丸がにかっと歯を見せた。
「さっき乱太郎に聞いたんですけどー。食満先輩と田村先輩が牡羊座だけの内緒話って言って、コソコソ面白そうなことしてるって」
さっき振った指を口の前に立てて、僕も牡羊座だから混ざる権利があります、と胸を張る。お得情報や儲け話はもちろん好きだけど、秘密の内緒話はきっと面白いに違いないもの!
目をきらきら輝かせるきり丸を前に、留三郎の軽口がややこしい方向へ転がったようだと察して、三木ヱ門は先ほどの文次郎さながらに頭を抱えた。
「あのなぁ、あれはただ食満先輩が冗談をおっしゃっただけで――」
「チーム牡羊座? なんだそりゃ」
「わあ!」
「潮江先輩はダメでーす」
訝しげに言った文次郎に三木ヱ門は悲鳴を上げ、きり丸はあっけらかんと言い放った。
片方の眉を上げて文次郎がきり丸に尋ねる。
「俺は仲間外れか」
きり丸が三木ヱ門を見る。
「食満先輩と田村先輩が作った牡羊座の秘密結社なんでしょ?」
三木ヱ門がぶんぶん首を振る。
「なんだか話がでかくなってる」