しわもシミも塗り込める白粉を使ってみてはどうかと、くの一の女の子たちや山本に朗らかに勧めた時の文次郎は素顔だったのだ。落とすのに手間がかかる化粧を落とした顔で無礼を働き、その後もう一度白塗りの顔をわざわざ作る理由がない。
蒼く燃える炎をまとって食堂で待ち構えていた山本は、おずおずと現れた白面が「自分が潮江だ」と名乗った時点でおおよその事情を察したらしい。
それを聞いた三木ヱ門は首をかしげた。
「あれ? でも、くの一の子たちも、"素顔の潮江先輩"に失礼を言われたのではないのですか」
それなのに、元の顔が分からないような化粧をしたままの文次郎をどうやって文次郎だと特定して報復したのかと三木ヱ門が尋ねると、頬を強くこすって文次郎が苦い顔をした。
「山本先生とくの一が一緒にいる時に偽の俺がいらんことを言ったようだから、そうなんだろうが……」
この無礼捨て置くものかと思い決めたくの一たちは、実習中の六年生が何人か集まっている後ろから、可愛らしい声を揃えて「潮江せんぱーい」と声をかけた。
何があったか知らない文次郎はあっさりと返事をして振り返る。
その時の顔が素顔だろうが白塗りだろうが、怒れるくの一には関係なかった。
そこまで話した瞬間に文次郎の目の焦点が彼方へ飛んだ。
「……あのくの一たちのことだ、何かおかしいと思っても、敢えて知らぬ振りをしたんだろうぜ」
だって、六年生相手なら手加減無用であの手この手を試せる"仕返し"は楽しいから。
「ご愁傷様です」
「縁起でもねぇな」
「その、あとあと考えてみて、潮江先輩に変装していたのが誰なのか見当がついたのですが」
「――てことは、鉢屋じゃないのか?」
かくかくしかじか三木ヱ門が説明すると、文次郎が絶句した。