さっきの「買い入れ先を選べば安く火薬が買える」というのはまるっきりの冗談を言ったわけではなく、従来の仕入先ではない販路で試しに買ってみたのだと、兵助が在庫表をぺらぺらさせながら説明する。
「一匁あたりの値段が少ーし安いくらいなんだが、大量に買うとなれば大きい額だから、品質が落ちないようなら仕入先を再考しようってことになってさ。田村には火器各種での試射を頼みたいんだ」
「私で良ければ、いつでも」
可愛い火器たちをずらりと勢揃いさせ、皆の注目を浴びながら晴れ晴れしく発射音を轟かす光景を想像して、三木ヱ門はうっとりした。その日までに気合を入れて鹿子たちの手入れをしなくちゃ。
「あのさ、何を想像してるのか大体分かるけど、」
頬を桜色に染め、夢見るような目付きで視線を宙にさまよわせる三木ヱ門に、指先で鼻の頭をこすりつつ兵助が言う。
「試射は先生方と火薬委員会だけが立ち会うから、あんまり"彼女"たちを飾り立てなくてもいいと思うよ」
「飾らずともきれいです!」
「……はい」
両手を軽く上げて兵助が降参の意を示す。焔硝蔵の中から小さい笑い声がして、すぐに止んだ。
「その件は日時が決まったら声をかけるってことでいいかな。火縄銃の火薬はいつ要る?」
「もうあんまり日がないですけど、今月中、必要になったらまた伺います」
「はいよ」
「あのー……やっぱり私、使い過ぎですか?」
おずおずと三木ヱ門が尋ねると、兵助は笑って首を振った。
「気にするなよ。生徒なら誰でも使っていいんだからさ。今日だって、用具委員会が古い橋の発破に使うって、結構持って行ったし」
「ああ。山向こうの村に、橋の架け直しに行ったって聞きました」
「今日は今のところ、その他の申請は出てないけど、田村の分は予約で承っとくよ」
「……ありがとうございます」
と言うことは、伊作と一平は火薬を取りに来ていないのか?