猿を巡る建前合戦の中に出て来た土倉のように、珍しい南蛮の鸚鵡を買うのが富裕層の間で流行り始めているという噂は、三木ヱ門も知っている。しかしいくら流行り物だからといって、一部の金持ちだけが楽しんでいる贅沢な道楽を生徒に許すほど、学園の風紀は緩んでいない。
塀に止まって寒さにふくらんでいるすずめの群れをちらりと見る。
「……あれだって、十分可愛いけど」
高価な鳥籠に見合う鳥なら、その辺にいるすずめやカラスやヒヨドリ、ムクドリのような、野生の鳥ではないだろう。
なぜ生物委員会ではなく作法委員会がという疑問は別にしても、鳥籠を買ったならその中へ入れるべき鳥もいるはずだが、それを買ったという支出報告を見た覚えはなく、飼ったという話も聞いたことがない。忌々しいほどに口達者過ぎる級友のせいで目立たないものの、喜八郎はあれで結構お喋りだから、委員会に珍しい生き物がやって来れば何かの折に話題にしていそうなものだ。
堂々と「鳥籠代」と書いてはいるけれど、まさかこっちも秘密の預かり物で緘口令を敷いている、なんて言うんじゃないだろうな。
不穏なことを考えつつ、木立をがさがさと掻き分けて焔硝蔵の裏手へ出た。
足音を忍ばせ、ひやりと冷たい土壁に沿って回り込み、表の方をひょいと覗く。
両開きの扉は片側だけ開いている。その前に立って、焔硝蔵の中にいる誰かに向かって話し掛けているのは、火薬委員会委員長代理の兵助だ。
伊作と一平の姿は――ない。
「あれ?」
思わず三木ヱ門の漏らした声が聞こえたのか、不意に兵助が振り返った。
焔硝蔵の角から半分だけ顔を出している三木ヱ門を見て、驚いた顔はしないが、何度か目を瞬く。
「何やってんの?」
「……何でしょうね」
二人連れの行方を兵助に尋ねてみるべきか否か、三木ヱ門は一瞬迷った。