笑顔と顔かたち、ふたつの仮面をかぶった三郎の、そこだけは本人のものに間違いない両の瞳をじっと見つめる。
「ものを入れたらいいんじゃないでしょうか」
視線を打ち込んだまま三木ヱ門が言うと、三郎の瞳孔が一瞬猫のように細くなった。
――ように錯覚して目を瞠る三木ヱ門に、小さく漏らしたあくびの続きの間延びした声で三郎が言う。
「そうだねえ。つづらがあったら、ものが入れられるなあ」
八左ヱ門の顔に雷蔵がするような柔らかい笑みを浮かべ、三木ヱ門の態度を気にする素振りも見せないで、三郎は黙ってニコニコする。
……やっぱり手強い。
見えない紗が下りたように内心が窺えない目に、三木ヱ門はこっそり溜息を吐く。
学級委員長委員会は今月「つづら代」という名目の支出を報告して来ていて、それは特に高額という訳ではなく、なるほどつづらの代金に見合っていた。学園長の突然の思い付きで何をさせられるか分からないため、学級委員長委員会は細々した備品を数多く持っているから、確かにつづらは必需品でもあろう。
しかし学園の中を探せば、使っていない備品のつづらくらい、ひとつやふたつは簡単に見つかる。それを管理者に融通してもらえばいい話で、わざわざ新しく買うほどのものではない。
と、会計委員長に指摘されたら――間違いなくそこを突っ込む――どう言い逃れるつもりなんだ?
それに今の言葉を考え合わせると、つづらの現物はない――本当は買っていないんじゃないのか?
それともわざと思わせぶりな事を言って、またからかわれてるんだろうか。
釈然としない顔つきの三木ヱ門に、三郎はニコニコからニヤニヤに笑い方を変えて、また焔硝蔵の方を指さした。
「善法寺先輩がこの前を通って行かれたのはついさっきだから、まだ追いつけるかもしれないよ。直ちに、今すぐに、速やかに! あとを追いかければ、さ」
「……わざわざどうも」
潮江先輩の鋭い剣突をどうかわすのか、今度は止めないでとくと見物してやると決心して、三木ヱ門は踵を返した。