予想通り、猿の捜索の途中で一平は伊作に会いに来ていた。
その後二人で焔硝蔵の方へ向かったのは、小さな猿が咬傷で毒を得た時、傷口を吹き飛ばす応急手当に必要な火薬を処方する――ため? かな?
「善法寺先輩って……火薬を扱うのは、得意にしてらっしゃいましたっけ」
宝禄火矢や大黒火矢の流れ弾に追われて逃げ惑っている姿はよく見かける気がするけれど。
もとい。目的は医療用でも、小猿に大怪我をさせない適度な火薬の分量を見極めるのは、保健委員の分野だろうか?
少し考えて、三郎が首を振る。
「聞かないな。火薬と言えば立花先輩だろう、やっぱり」
次点で火薬委員会委員長代理の兵助と、それに君、と三木ヱ門の鼻の頭を指さす。そして急に手を引っ込め、すとんと眉尻を下げた。
「なんでまた引くの?」
さっき留三郎に食らった指弾がかなり痛かったので、顔に指を向けられ反射的に身体を引いてしまった三木ヱ門は、いかにも傷心な様子の三郎にぺこりと頭を下げた。
「失礼しました。その……鼻をぶつけたばかりなもので、つい」
「ま、人を指差すのも行儀が悪かったな。お相子、お相子」
そう言いながら三郎はなぜか片手を挙げた。三木ヱ門がキョトンとすると、その手をひらひらさせて三木ヱ門の手元に視線を送り、戸惑いつつ持ち上げた手にパンと音を立てて打ち合わせる。
「はい。これにて、手打ち」
じいんと痺れた手のひらを軽く握り、三木ヱ門は苦笑いした。有無を言わせず力技で周囲を巻き込む文次郎や小平太とは種類が違うが、三郎もまた相当なマイペースだ。
「……庄左ヱ門と彦四郎の苦労が忍ばれます」
「勘右衛門は除外?」
「尾浜先輩はもう諦めてらっしゃるでしょうから」
「ひどーい」
「鉢屋先輩なら、」
遠くに見える竹林に寸の間目をやり、口を尖らせる八左ヱ門の顔の三郎に向き直る。
「すずめのお宿から大きなつづらを持ち帰っても、中の妖物をうまく言いくるめて穏便に帰らせそうですね」
「そうかもねえ。でも、あとに残ったつづらはどうしようか?」
うそぶいた三郎が、顔いっぱいにニイッと笑った。