※三郎と雷蔵の一人称は初期に倣って「私」です。三郎はたまに「俺」。
--------------
「笑い事ではない気がします」
「そう? 私はここにいるのに、自分でそれを忘れてしまうなんて笑えるよ。笑っているのは誰? 私じゃない知らないひとだ。知らないひとが私を笑う。私って誰だ? 誰を笑っているんだ? 笑っているのは誰?」
あはっはっはっはっはーと一本調子な笑い声を上げてみせて、ぴたりとそれを止めた。表情を強張らせて後ずさった三木ヱ門に、気まずそうな顔をする。
「……引いた?」
「……引きました」
「……ごめんね」
やり過ぎた、と言って舌を出し、三郎は目元をくしゃっとさせて笑う。ごく普通なその笑い方にホッとした三木ヱ門が文次郎の怒りの理由を教えると、果たして三郎は「冤罪だ!」と叫んで頭を抱えた。
「今日は朝からずっとこの顔だぞ、私は。潮江先輩にはなっていない、と言うか、六年生の実習のことも今知った。なのにどうして私の仕業と決め付けられちゃうんだ? 納得いかない!」
「不破先輩は、普段の行いのせいだとおっしゃってました」
「ああ悲しい。なんて友達甲斐のないやつだ。私はいたく傷付いたぞ」
雷蔵にはこの代償に団子の一皿も要求してやるとひとしきり嘆いて、けろっとした顔を三木ヱ門に向ける。
「それで、本当の仕手は? 君には見当がついてるんだろ」
「ええ、まあ。不破先輩の助言で六年生だと分かりました。本人に確かめてはいませんが、おそらく、」
「七松先輩? ……あ、やっぱり」
解答を引き取られた三木ヱ門がこっくり頷き、三郎が唸る。
悪意のない暴言をさらっと吐けるのは小平太を措いて他にいない。その無邪気さは得難い魅力ではあるが、お陰で文次郎は大変な目に遭い、三郎はとばっちりを食ったわけだ。
「ところで三木ヱ門はなんでここに? 君も昼寝に来たのかい」
「私が用があるのは薬草園なんです。善法寺先輩がいらっしゃると聞いて」
「ありゃ、それは一足残念だ」
さっきあちらの方へ行かれるのを見かけたよと、焔硝蔵がある方角を指す。
「焔硝蔵の方に、ですか」
「うん。どうしてだか生物委員の一平と一緒だったよ。応急手当用の火薬のことでも相談したのかな」
「……ビンゴ!」
「ん? 備後?」
お好み焼き? と三郎が首をひねった。