子供と大人に、時には人間と牛馬に、同じ薬を調合することがある。その場合は体重に応じて薬草の量や成分の濃さを調節して処方するのだ。
そう言って、左近は留三郎に貼り付けられた膏薬を意味有りげに見た。
「いま乱太郎が使った沈痛膏は薬効成分が標準のやつだから、効果があるのは十貫から十三貫程度までです。それより多ければもう一段強力なのを使わないと、」
「十二貫。十二貫だ」
跳ね起きた留三郎が大急ぎで説明にかぶせると、左近は渋い表情になって、留三郎の頭の天辺から爪先まで一渡り見回した。
「それはそれで背丈に対して少な過ぎです。伊作先輩か新野先生から保健指導が入りますよ。生活と食事の見直しとか、定期健診とか」
「……どうすりゃいいんだよ、俺は」
「大人しく怪我の治療を受ければいいんじゃないでしょうか」
「田村!」
しれっと口を挟んだ三木ヱ門に、留三郎が手ひどい裏切りに遭ったような顔をする。猛獣さえ居竦ませそうな凄い目付きを向けられるが、正門で浴びせられた殺気で既に耐性がついている三木ヱ門は、まだガッツポーズを決めていた乱太郎の頭をポンポンと叩いた。
「食満先輩は連日の課外労働であちこち負傷しておられる。しっかり手当てして差し上げろ」
「委細承知です!」
「左近も手伝ってやれ。あとでレポートを添削してやろう」
「……万事了解です」
元気良く乱太郎が、力強く左近が宣言して、留三郎を挟み撃ちする形に素早く展開する。低学年をちぎって投げる訳にはいかない留三郎は進退窮まり、それでも往生際悪くずるずると後退って、離れて眺めニヤニヤしている三木ヱ門を睨んだ。
「さっさと行っちまえ」
「そうします。作兵衛の方はお願いしますね」
「――あぁもう、俺が何したってんだよ!」
「ん?」
聞き慣れた本日三回目の嘆きの台詞を背に、三木ヱ門は医務室を後にした。
※十~十三貫は約38~49kg、十二貫は約45kg。