そそくさと立ち上がり、下級生たちの様子を見に行くので失礼しますと言って、医務室の戸に手を掛ける。
そしてふと立ち止まった。
「生物委員の一平が、ここに来なかった?」
憮然とした表情で生姜湯をすする左近と、死角から留三郎の隙を伺っている乱太郎に尋ねるが、二人とも揃って首を振る。
「ふうん……。ところで、保健委員長はどちらにいらっしゃる?」
「今日は伊作先輩は当番ではないので、分かんないです。……あ、でも、ちょっと顔を出して行かれた時に薬草園の手入れをするっておっしゃってたな」
「薬草園か」
乱太郎の答えを聞いて孫兵は何度か頷き、訝しげな表情をしている三木ヱ門に顔を向けて、ぺこりと頭を下げた。
「先輩がおっしゃったことは信じます。でも、確信の根拠を思い出したら教えて下さいね」
「ん? ああ、分かってる」
軽く眉を寄せたまま三木ヱ門が顎を引くと、孫兵はもう一度頭を下げ、急に厳しい顔つきになって小走りで医務室を出て行った。
何とはなしに気にかかる態度だ。
閉めそこねて一寸ほど開いたままの引き戸をきちんと閉じ、三木ヱ門は首をひねる。
「……善法寺先輩が何か関わっているのか?」
一平が「保健のところ」へ行ったのは孫兵も知っていたらしい。それは医務室のことと思っていたが、確認したら違った。続けて伊作の居場所を尋ねた――ということは、「保健のところ」とは「伊作がいる場所」を指すのか。
つまり一平は――と言うよりも生物委員は、猿の捜索に関連することで伊作に用がある?
猿がちょろちょろ逃げ回らないように、煙を吸ったら即座に眠り込むような超強力な眠り火でも調合して貰うのかな。それとも、孫兵の飼っているじゅんこはマムシだったっけ、そいつも捜索に加わっているそうだけど、万が一猿を噛んだ時のために血清を頼みに行ったとか?
立ち尽くして考え込む三木ヱ門を見上げて何か言おうとした留三郎が、強く引かれたように後ろ向きに倒れた。
「うおぁっ」
「討ち取ったりーっ」
床の上でくるっと一回転した乱太郎が、片膝立ちで高らかに勝どきを上げる。
留三郎の背後からこっそり近付き、肩越しに飛び込み前転を決めざま首元へ膏薬を叩き付けた、らしい。唖然とした表情で鎖骨の辺りを押さえる留三郎の手の下に、強烈な刺激臭の元が見事に移っている。
「食満先輩、目方はいくつですか」
「え?」
後輩が見せた荒業にくすっと笑った左近が尋ねると、留三郎は呆けたような声を出した。